S&P500VIXShort-TermIndexMCAPの仕組み実はコンタンゴによる減価ではなかったVXXが長期的に下落する理由

2023年5月11日

追記

S&P 500 VIX Short-Term Index MCAPとは

S&P 500 VIX Short-Term Index MCAPはVIX短期先物指数の正式名称です。 S&P 500 VIX短期先物指数 証券コード: SPVIXSTR
VIXの先物を日々一定数量入れ替えることにより指数を算出しています。先物をロールオーバーしていると説明されることが多いですが実際はロールオーバーはしていません。
算出方法の概要は下記の記事を参照してください。
従ってVIX指数とも違いますし、VIX先物とも価格が違います。また、同じようにVIX先物をロールオーバーしていくとされるVXXとも価格は違います。
VIX短期先物指数自体を売買する商品は現在ないと思われます。近いものとしてはVXXになります。

VXXの長期的下落の理由としてコンタンゴによる減価があげられる。
この点少々誤解をしていたのでまとめておきたい。
そもそもVXXはVIX短期先物指数に連動するように設計されたETNなので、このVIX短期先物指数がどのような算出方法をとっているか分かればいいことになる。公式サイトにはメソトロジーなどとして公開されている。 https://japanese.spindices.com/indices/strategy/sp-500-vix-short-term-index-mcap
これを読むと、コンタンゴによる減価分が計算されている様子はない。巷ではVXXが長期的に右肩下がりのチャートを描くのは先物ロールオーバー時のコンタンゴによるロスだと言われている。
そこで、同じような指数である日経平均ボラティリティーインデックス先物指数の算出要領をみてみよう。なんでもアメリカの真似をする日本なら、基本的な算出要領も踏襲しているに違いない。
公式サイトに https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index/profile?idx=nk225vifi 算出要領 https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/file/nikkei_225_vi_futures_index_guidebook_jp.pdfがある。
これによれば確かにコンタンゴやバックワーデーション分を加減算しているわけではなく、それに期近と期先の重みを調整して指数に加減算していく。

①2012 年 9 月 28 日の算出例(通 常日の 算出。 以下、前日 は 9 月 27 日、当日は 9 月 28 日)
・日経平均 VI 先物指数(前日)=58104.26
・2012 年 10 月限の限月ウエート(前日)=0.38
・2012 年 10 月限の先物価格(前日)=19.40
・2012 年 10 月限の先物価格(当日)=19.25
・2012 年 11 月限の限月ウエート(前日)=0.62
・2012 年 11 月限の先物価格(前日)=20.25
・2012 年 11 月限の先物価格(当日)=19.90
日経平均 VI 先物指数(当日)
=58104.26×{(0.38×19.25+0.62×19.90)÷(0.38×19.40+0.62×20.25)}
=58104.26×0.986249…=57305.315490…≒57305.32
②2012 年 10 月 10 日の算出例(ロ ール日 の算出 。以下、前 日は 10 月 9 日、当日は 10 月 10 日)
・日経平均 VI 先物指数(前日)=53215.11
・2012 年 11 月限(前日の期先限月)の先物価格(前日)=18.50
・2012 年 11 月限(当日の期近限月)の先物価格(当日)=18.65
日経平均 VI 先物指数(当日)
=53215.11×(18.65÷18.50)=53215.11×1.008108…=53646.583864…≒53646.58

基準となる指数に対して日々パーセンテージの割合で加減算していくため、基準指数が減価していくと加減算される絶対値も小さくなっていく。
VXXなどが何十分の一にも右肩下がりしていくのは安くなったものを併合しているため逆算して昔の価格を高くしているからであって、最初からの価格設定ではないことに注意を要する。
先物を直接ロールオーバーする場合は割合ではなく価格差そのものが累積されていく。
1ドルの価格差であれば12か月で12ドル。仮にその1ドルの割合が5%だとするとVXXは基準価格から5%を減算していく。当初の価格が100だとすると、基準価格はどんどん小さくなっていくので同じ12か月の期間で60%減算されて40にはならない。100→95→90.25→85.74→81.45→77.37→73.51→69.83→66.34→63.02→59.87→56.88→54.03
同じ60%にするためには基準価格を毎回100にする必要がある。

 

期近より価格の高いコンタンゴ状態にある期先に乗り換えると、価格自体は上昇したように見えるが、それは見えるだけであって期近の価格が上昇したわけではない。従って本来であれば上昇した部分を減じる。これはCFDの価格調整の受渡で行われている。
しかし、VIX短期先物指数にしろ、日経ボラ先物指数にしろ、指数化されているので価格調整額のようなものを加減算する必要はない。
単にどれだけ価格が上昇したか、あるいは下落したかという点だけを見るわけである。もっともそうなると先物と何が違うのかということになってしまう。
とは言え、先物は満期がくると翌期にのりかえる。翌期の価格がまったく同じであれば問題ないがほとんど価格が違う。
そうなると価格の連続性がない。
従って残存期間を30日に調整し、常に残存期間30日の先物価格として表して価格の連続性を持たせるようにしたものがVIX短期先物指数であり、日経平均ボラティリティーインデックス先物指数ということになる。
では、なぜVXXはコンタンゴによる減価が理由で長期的に下落すると言われるのか?
この点先物と現物のサヤ取り、あるいはサヤすべり取りなどと同じ構造がそこにあるからである。そもそも先物価格が高いとなぜ売れば儲かるのか?
先物は基本的に現物価格で清算されるので先物が高ければ現物買いの先物売りで価格がいくらになろうが満期にはそのサヤの部分がとれることになる。
そして、期近より期先の価格が高い場合も構造的には同じである。価格がずっと上昇し続けることはないからである。もっとも長期的に価格が上昇するような商品もあるため、この場合は現物の裏付けがなければいくらコンタンゴ状態にあっても先物だけを売り続けると損失になる可能性はある。
翻ってVIXであるが、VIXが何年にもわたって上昇し続けることはなかったわけで、上がれば下がる、長期的にみれば一定のレンジにあるといってもいい商品である。従ってコンタンゴ状態にあれば先物価格は満期に向けて下落していくことが圧倒的に多いことになる。
これがVXXの減価はコンタンゴによるもの、と言われている理由である。
よって、ロールオーバー時のコスト(安く売って高く買い直す際のコスト)が減価の要因というのは誤解である。